九州大学医学研究科の林克彦教授らの研究チームは、マウスの卵子の発生に重要な8つの遺伝子を同定し、それらの遺伝子群をiPS細胞に導入することで、短期間に大量の卵子様細胞を作製することに成功した。この研究成果は、2020年12月16日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。
卵母細胞は動物の卵子形成の元になる特殊な細胞であり、不妊治療の研究に多く用いられている。しかしながら、卵母細胞の発生メカニズムについては不明な点が多かった。チームは、幹細胞から卵子が形成される過程を詳細に解析することで、卵母細胞の発生に重要な8つの遺伝子を同定した。さらに、これらの遺伝子群をES細胞やiPS細胞に導入することで、受精能を持った卵子様細胞を作製することに成功した。一方で、今回作製した卵子様細胞は受精後に細胞分裂が止まるといい、正常な発生を再現することが今後の課題と言える。
本研究により、これまで数週間かかっていた卵子様細胞の誘導が5日間まで大幅に短縮できた。さらに、一度に作製可能な細胞数も10倍以上に増えた。これによって、卵子の形態形成機構の研究や不妊治療など生殖医療技術の開発が飛躍的に発展することが期待される。