米スタンフォード大 iPS細胞由来の心疾患病態モデルを用いて家族性不整脈・進行性心不全治療薬候補を発見

iPS細胞技術の画期的な点の一つとして、病気の原因となる遺伝的変異を持っている可能性のある患者のiPS細胞から、病気の進行に関わる細胞を作製し病態モデルを作ることが出来ることが挙げられます。それにより、科学者が研究室で病気と関連のある細胞について調べ、病気の進行を遅らせたり、治療出来る可能性のある薬を探すことが出来るようになります。

スタンフォード大学の研究チームは、2020年7月にScience Translational Medicineという科学誌で、iPS細胞から作製した血管細胞と心筋細胞の病態モデルを用いて薬物スクリーニングを行い、家族性心不整脈と進行性心不全が、既知のコレステロール低下薬によって治療出来る可能性があると報告しました。驚くべきことに、iPS細胞由来の心筋細胞は実際に培養皿の中で心臓のように拍動します。

研究者らは、進行性心不全に関連するLMNA遺伝子に変異を持っている家族4世代から皮膚細胞を採取してiPS細胞を作製しました。そのiPS細胞から、心臓や血管を構成する内皮細胞と、心筋細胞を作製しました。それらの内皮及び心筋細胞を調べると、LMNA遺伝子に変異を持つ患者さんの血管細胞ではKLF2という遺伝子の発現が低下していることがわかり、コレステロールを低下させる薬であるスタチン系薬剤を使用することで、培養皿上で正常な発現に回復しました。

これら2種類の細胞のどちらが体内の心臓病の進行を促進する原因となっているのかを調べるために、同じ培養皿上で2種類の細胞を一緒に培養し、心筋細胞を評価しました。研究チームは、薬物治療あるいは遺伝子編集によって血管細胞のLMNA遺伝子を修復することで、2種類の細胞が相互に作用すし、心筋細胞の機能が改善することを見出しました。研究者らは、スタチン系薬剤を使って血管細胞におけるKLF2の発現を正常に戻すことで、患者さんのiPS細胞から作った心筋細胞の病気の特性の改善を誘導すると結論付けました。この結果は、遺伝的変異を持ち心不全の可能性が高い人々にとってスタチン系薬剤が重要な治療薬になる可能性があることを示唆しています。

この論文の著者は、この結果を「培養皿の中での臨床試験」と呼び、iPS細胞技術が再生医療だけでなく創薬研究にも貢献出来ることを示しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32727917/

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