iPS細胞を用いたがんワクチンが膵臓がんの腫瘍増殖を防ぐ(2021年発表)

(論文)
Antitumor effects of iPSC-based cancer vaccine in pancreatic cancer

(論文の意義)
スタンフォード大学の研究チームは、iPS細胞を用いたがんワクチンが、マウスにおいて膵臓がんの腫瘍形成を抑制することを確認しました。この研究結果は、膵臓がんに対するiPSワクチン接種のさらなる研究を支持するものです。

(従来の膵臓がんに対する治療)
膵臓がんに対する最も効果的な治療法は外科手術ですが、腫瘍を切除することができる早期の段階で診断される患者さんは約10%だけです。抗がん剤治療も行われていますが数十年の間、膵臓がんの5年生存率は一桁台で推移しています。近年、免疫チェックポイント阻害剤ががんの治療に用いられるようになってきました。この治療は、がんに遺伝子変異が多い程効きますが、膵臓がんは遺伝子変異が少ないため効果が得られにくく、治療が困難です。

(がんワクチン療法)
ワクチンは免疫力を高める薬の一種です。通常、ワクチンは感染症から体を守るために投与されます。しかし、がんワクチンは、免疫力を高めてがん細胞を攻撃するために使用されます。がんワクチン療法では、T細胞という免疫細胞ががん細胞を攻撃する主な働きをします。一つのT細胞は一種類の目印(抗原)に対応しています。T細胞が抗原を認識するためには、抗原提示細胞という細胞の助けが必要です。抗原提示細胞に、がんにだけ特異的に発現している抗原を持たせると、抗原を認識するT細胞が増殖して、がん細胞を攻撃します。この抗原を持たない正常細胞は攻撃されないため、安全性の高い治療と考えられています。

(iPS細胞を用いたがんワクチン療法)
T細胞ががん細胞だけを攻撃するためには、がん細胞にはあって、正常細胞には存在しない抗原を見つける必要があります。近年、iPS細胞とがん細胞で共通する遺伝子(iPS細胞—がんシグネチャー遺伝子)の発現が上昇していることが分かりました。これらの遺伝子は、iPS細胞とがん細胞では高発現していますが、正常細胞ではわずかにしか発現していないか、全く発現していません。以前の研究で、iPS細胞を用いたがんワクチンが、マウスにおいて抗腫瘍効果を持つことが報告されていますが、膵臓がんのように遺伝子変異量の少ない腫瘍においても抗腫瘍効果を持つのかどうかは不明でした。

(今回の研究)
研究チームは、マウス由来のiPS細胞からワクチンを作成し、膵臓がんモデルマウスに投与して抗腫瘍効果を検証しました。iPS細胞ワクチンは、iPS細胞と、抗原提示細胞の成熟を促す「アジュバント」という物質から構成されていました。①iPS細胞+アジュバント投与群、②iPS細胞単独投与群、③アジュバント単独投与群、④リン酸緩衝生理食塩水(PBS)投与群(コントロール群)にグループ分けし(n=7-8匹/群)、それぞれ週1回、4週間皮下注射しました。その後、マウスに膵臓がん細胞を接種しました。その結果、iPS細胞+アジュバント投与群では、75%(6/8匹)のマウスでがん細胞が全く認められませんでした。また、腫瘍接種後49日目までの平均腫瘍体積を比較すると、iPS細胞+アジュバント投与群は、iPS細胞単独投与群(p = 0.0448)、アジュバント単独投与群(p < 0.0001)、PBS投与群(p = 0.0050)よりも平均腫瘍体積が有意に低下していました。これらの結果から膵臓がんにおけるiPS細胞を用いたがんワクチンの有効性と抗腫瘍効果が示されました。

(研究者の方向け 追加詳細情報)
研究チームは、膵管腺癌モデルマウスに対してiPS細胞を用いたがんワクチンが、細胞障害性の抗腫瘍T細胞およびB細胞免疫応答を誘導することを確認しました。また、このがんワクチンが、免疫を抑制するTreg細胞を減少させることも示しました。iPS細胞—がんシグネチャー遺伝子が、マウスおよびヒトのiPS細胞株、膵管腺癌細胞および複数のヒト固形腫瘍で、正常組織と比較して過剰発現していることも分かりました。これらの結果は、膵管腺癌および変異の少ない他のがん種におけるiPS細胞ワクチンのさらなる研究を支持するものです。

お問い合わせ

担当者よりご連絡させていただきます。

下記項目にご記入願います。担当者よりご連絡させていただきます