順天堂大学等のグループがiPS細胞由来のT細胞を用いた子宮頸癌治療法を開発

iPS細胞由来のT細胞を使った子宮頸癌の治療法が開発されました。順天堂大学等の共同研究グループが子宮頸癌に対するiPS細胞由来のT細胞療法開発に成功したことを学術誌Molecular Therapyにて報告しました。

T細胞は免疫システムの一構成要素であり、細胞上の非自己(外来)タンパク質分子を認識することができます。T細胞がそのような外来タンパク質を細胞上で認識すると増殖し、ウイルスや細菌、癌細胞等の外来物と認識されたものに対する攻撃を開始、破壊します。
ここで報告された例によると、ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんを引き起こす原因ウイルスです。感染したウイルスによって引き起こされたがん細胞では、ウイルス由来の通常は体内に存在しないタンパク質を、その組織細胞の表面に出現させます。
体内には異なる種類の細胞表面レセプターをもつ様々なT細胞が存在します。その中には子宮頸がんの特異的なタンパク質を認識することが可能なT細胞が存在する。このようなT細胞を大量に増やして体内に移植できれば、子宮頸がんを破壊、治療することができます。

しかし、過去20年間、様々な研究者が腫瘍を認識し攻撃することが出来るT細胞を体から取り出し、人間の体に本来備わっているT細胞のがん細胞を殺す働きをいかすことに取り組んできました。
いったん単離されると、がんを攻撃するT細胞はがんを特異的に攻撃する遺伝的記憶を保持させた状態で刺激により培養皿上で増殖させることができます。増殖させた後にその細胞を患者の体内に戻してがんを攻撃させることができます。

課題は二つあります。
1. 試験管内で増やすとT細胞の攻撃性が少なくなっていくことです。T細胞を若返らせ、再びより強力に増殖する能力を与え、また腫瘍を効果的に排除するに十分な量の同じ細胞を継続的に投与して患者を治療出来るよう、T細胞を無限に供給できるようにすることでした。

2, 特異的にがんを攻撃できるT細胞をどの様に単離し濃縮するかということです。

課題1への解決方法
過去の研究において、特異的な腫瘍を攻撃するT細胞をiPS細胞としてリプログラムし、その後T細胞に分化させることでこの問題が解決されました。T細胞からiPS細胞に初期化する過程で若返りが起き、その後、iPS細胞からT細胞を作ることでより若返ったT細胞の作成に成功しています。。
リプログラミングすることで若返ったT細胞は実際に腫瘍に対する攻撃力を保持しており、iPS細胞由来のT細胞は、体内から取り出したT細胞よりも効果的に腫瘍を破壊することができました。

課題2の解決方法
子宮頸癌細胞を認識できるT細胞を単離するため、研究者らは過去ににHPVに感染したことのある患者の血液細胞を採取し、それらのT細胞にウイルスが作るものと同一のタンパク質に触れさせました。これにより、一度、HPVウイルスに接した事のあるT細胞は、ウイルス由来のたんぱく質に触れることで、非常に活性化されて分裂増殖します。その結果、子宮頸がんに特異的なT細胞を選択的に増殖する事に成功しました。この単離されたT細胞を初期化することで若返り活性化した、HPVを認識する能力を持つT細胞を大量に作製する事に成功しました。
人間の子宮頚癌を持つマウスに移植すると、細胞療法により効果的に腫瘍を攻撃・排除することができました。

過去にもこの手法を用いた報告例はありますが、今回の報告は、固形腫瘍に対する細胞治療のために、iPS技術で抗腫瘍T細胞を若返らせた成功例として大きな意味のあるものです。
この手法は、遺伝子工学と、人間が体内に有する抗腫瘍活性のある免疫細胞の単離とを組み合わせ、iPS細胞を中間体として用いるもので、研究者らが特定の癌に対するいわゆる既製の免疫細胞療法を開発することを可能にし、効果的かつ急速に拡大している臨床研究領域と言えます。

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