京大 iPS細胞からがん免疫療法の治療効果を高める再生T細胞を高効率で作製に成功(2018年発表)

(2018年発表の研究紹介)
京都大学iPS細胞研究所の金子新教授らの研究チームは、ヒトiPS細胞から再生T細胞を作製する際にゲノム編集によって腫瘍を攻撃する力を高めることに成功した。

マウスで腫瘍を攻撃する能力が確認され、臨床試験に進むための大きな一歩です。このグループをリードする金子教授のグループは武田薬品との共同研究プログラムであるT-CiRAで研究を進めている先進的なグループです。

(従来のT細胞免疫療法)
T細胞は免疫細胞の一種です。T細胞はウイルスに感染した細胞やがん細胞などを、増殖して相手を攻撃します。

特定のがん細胞を認識する受容体の遺伝子をT細胞に導入することで、特異的ながんを攻撃するT細胞を増やすことができます。これを移植することで、特定の癌を攻撃させ、癌を直すことができると期待されています。

ひとつのT細胞は受容体を1種類しか持っていないので、認識する抗原は1種類で、他の抗原には反応しません(抗原特異性)。そのため、遺伝子導入したT細胞はがん細胞だけを特異的に攻撃する事ができます。

(従来法のiPS細胞を使わないT細胞免疫療法の問題点)
しかし、患者さんの血液からT細胞を取りだす方法では、得られるT細胞の増殖力が弱く、細胞数に限りがあることが問題でした。また、増殖させたT細胞はガンを攻撃する力が弱まってしまう事が問題でした。

(今回の研究)
研究チームはまず始めに、T細胞由来iPS細胞に関する研究を行いました。がん患者さんの血液からがんを認識するT細胞を回収してiPS細胞を作製し、そのiPS細胞をT細胞に再分化させました。この研究で、iPS細胞からT細胞に分化誘導する間の一時期(DP細胞期)余計な受容体遺伝子の再構成が起きて抗原特異性が低下し、再生T細胞ががんを攻撃できなくなることを発見しました。この問題を解決するために、ゲノム編集システム(CRISPR/Cas9)を用いてiPS細胞中のRAG2遺伝子を除去し、余計な遺伝子再構成が生じないようにすることに成功しました。ゲノム編集した再生T細胞を腫瘍移植マウスに投与した結果、投与したマウスでは、何も投与しないマウスと比べて腫瘍の進行が遅くなり、生存期間が延長しました。

次に、研究チームはiPS細胞ストックに関する研究を行いました。血液中の単球から作ったiPS細胞に、がんを認識する受容体の遺伝子を導入して再生T細胞を作製しました。この方法では、余計な受容体の再構成は起きず、抗原特異性を持つT細胞だけを作ることが可能でした。遺伝子導入した再生T細胞を投与した腫瘍移植マウスは、投与しなかったマウスや、受容体遺伝子を導入したT細胞(iPS細胞を使わない従来のT細胞免疫療法)を投与したマウスと比べて、腫瘍の進行が遅くなり、生存期間が延長しました。さらに、この再生T細胞を投与したマウスでは、ガンの臓器転移の発生率が下がりました。

これらの研究結果は、iPS細胞を用いたT細胞療法をより安全で効果的なものにするために役立つと考えられます。

(T細胞由来iPS細胞を用いた免疫療法)
iPS細胞はほぼ無限に増殖できます。がんを認識する受容体を持つT細胞からiPS細胞(T細胞由来iPS細胞)を作り、そのiPS細胞からT細胞を再生すれば、増殖力の高いT細胞を大量に作ることが可能になります。この治療は、患者さん自身のT細胞を使うため、その患者さん1人にしか使えません。

(論文)
タイトル:Enhancing T Cell Receptor Stability in Rejuvenated iPSC-Derived T Cells Improves Their Use in Cancer Immunotherapy
著者:Minagawa et al.,
ジャーナル:2018, Cell Stem Cell 23, 850–858 December 6, 2018 ª 2018 Elsevier Inc.
https://doi.org/10.1016/j.stem.2018.10.005

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