京大 ゲノム編集技術を用いて拒絶反応のリスクが少ないiPS細胞を作製(2019年発表)

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の金子新教授、堀田秋津講師らのチームは、ゲノム編集によって拒絶反応リスクの少ないiPS細胞を作ることに成功しました。

研究の意義)
iPS細胞でHLAの編集をすることで、より免疫拒絶の少ないiPS細胞の作製に成功しました。これにより、体の中でより安定的に存在をして機能する細胞を作ることができます。

(再生医療における拒絶反応リスク)
iPS細胞の研究が進められ、再生医療への応用が期待されています。しかし、患者さん以外の他人の細胞から作ったiPS細胞を再生医療に用いる場合、拒絶反応が起きるリスクがあります。免疫細胞は、細胞表面にあるヒト白血球抗原(HLA)という分子を認識して細胞の自他を区別していて、自分と違うHLA型の細胞を異物と認識して攻撃します。拒絶反応を回避するためには、患者さんとドナーのHLA型をできるだけ合わせる必要があります。HLAの型はHLA-A、HLA-B、HLA-Cなどの遺伝子の組み合わせで決まり、数万通りの型が存在します。

(拒絶反応を減らすための従来の対処法)
1)ホモ接合体ドナー
拒絶反応リスクを減らす方法として、HLAホモ接合体を持つドナーの細胞からiPS細胞を作る方法があります。HLAホモ接合体とは、父親と母親から同じHLA型の遺伝子を受け継いだ子の細胞のことで、両親から異なる遺伝子を受け継いだHLAヘテロ接合体の人に移植しても拒絶反応が起こりにくいと考えられています。ほとんどの人はヘテロ接合体を持っているため、日本人の90%をカバーするためにはHLAホモ接合体のiPS細胞株を140種類以上そろえる必要があり、そのためには15万人以上のHLA型を調べる必要があります。

2)ゲノム編集によるB2M遺伝子の除去
ホモ接合体からiPS細胞を作る代わりに、ゲノム編集によってB2M遺伝子を除去する方法も試みられています。この遺伝子を除去すると、HLAタンパク質が細胞表面から消失するため、免疫細胞であるT細胞からの攻撃を回避することができます。しかし、これらのタンパク質が消失すると、NK細胞という別の免疫細胞が活性化されて、移植したドナーの細胞を攻撃します。また移植細胞が感染したり癌化したりした場合、T細胞による必要な免疫反応が起きないため感染細胞や癌細胞が増殖してしまう危険性があります。

(今回の研究)
研究チームは、HLAヘテロ接合体の細胞から作ったiPS細胞を用いてゲノム編集(CRISPR-Cas9)を行い、拒絶反応リスクの少ないiPS細胞を作る2つの方法を開発しました。

一つ目の方法は、それぞれが対になっているHLA-A、HLA-B、HLA-C遺伝子の片側だけを除去し、HLA疑似ホモ接合体を作る方法です。この方法でゲノム編集したiPS細胞を血液細胞に分化させ、T細胞と一緒に培養すると、ゲノム編集しなかった細胞に比べて、HLA疑似ホモ接合体血液細胞の方がT細胞による攻撃を受けにくいことが分かりました。しかし、この方法で日本人の95%以上をカバーするためには、73種類のiPS細胞株が必要です。

二つ目の方法は、HLA-A、HLA-B遺伝子の両側と、HLA-C遺伝子の片側を壊して、HLA-C保持iPS細胞を作る方法です。NK細胞はHLA-Cによって活動が抑制されるため、B2M遺伝子を除去(HLA-A、HLA-B、HLA-Cが全て消失)した細胞はNK細胞から攻撃されますが、HLA-C保持iPS細胞はNK細胞による攻撃を回避できるはずです。HLA-C保持iPS細胞から血液細胞を分化させ、T細胞およびNK細胞と一緒に培養した結果、ゲノム編集していない細胞やB2M遺伝子を除去した細胞は免疫細胞に攻撃されるのに対して、HLA-C保持細胞は攻撃を受けにくいことが確認されました。さらに免疫不全マウスにHLA-C保持血液細胞とT細胞を移植すると、ゲノム編集していない細胞とは対照的に、HLA-C保持細胞は生体内で1週間以上生存しました。同様に、NK細胞とHLA-C保持血液細胞を移植した場合でも、HLA-C保持細胞の方が、B2M遺伝子を除去した細胞よりも、高い生存率を示すことが確認されました。この方法を用いた場合、7種類のiPS細胞株だけで日本人の95%以上をカバーし、12種類で全世界人口の90%以上をカバーできると試算されています。

これらの研究結果は、再生医療用iPS細胞を作る際に必要なドナーの人数を大幅に削減し、iPS細胞を用いた再生医療の普及に大きく貢献すると考えられます。

(論文)
タイトル: Targeted Disruption of HLA Genes via CRISPR-Cas9Generates iPSCs with Enhanced Immune Compatibility.
著者:Xu et al.,
ジャーナル:2019, Cell Stem Cell 24, 566–578 April 4, 2019 ª 2019

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