iPS細胞由来の間葉系幹細胞で移植片対宿主病の臨床試験で効果確認

間葉系幹細胞(MSC)は骨髄と脂肪組織の両方に見られ、免疫特権を持っています。免疫特権とはつまり、免疫系に認識されにくく、他人由来の細胞や組織等を移植する際に起こる免疫拒絶反応や炎症反応などが起こりにくい性質のことです。間葉系幹細胞は免疫特権によって、他人の細胞や組織を移植した後、移植片が患者さんの免疫系から攻撃されずに体内で生き残りやすいのです。さらに、MSCは自分の細胞を移植する自家移植であっても、他人の細胞を移植する他家移植であっても、炎症性疾患の細胞治療を行う際に、大きな抗炎症効果を発揮する可能性があります。しかし、個人間で有効性にばらつきがある可能性はあります。また、増殖能は限られており、培養することによって増やせる量には限界があります。


Cynata Therapeutics社は、患者さん毎に有効性に差がなく、かつ無限に増やせるMSC治療の原材料となる細胞を作り出すことを目指し、富士フィルムから特許ライセンスを取得して「Cymerus™ MSCs」という新しいiPS細胞由来の製品を開発しました。単一ドナーの体細胞から作製したiPS細胞は無限に増やすことが出来る上、間葉系幹細胞に容易に分化誘導できるため、MSCの供給源として最適で、移植に十分な量のMSCを作製することを可能にします。Cynata社は、2020年7月、ステロイド抵抗性の炎症性症候群である移植片対宿主病 (GvHD)の患者さんで、血液幹細胞移植を受けられた方を治療するために、2年間かけて15例のCYP-001第1相臨床試験(安全性および有効性の試験)を行い、効果が見られたと発表しました。


GvHDは、骨髄移植やその他の組織を移植した後に起こりうる免疫疾患であり、ドナーの白血球がドナーが提供した移植片の中にとどまることがあり、その白血球が被移植者を異物(非自己)と認識します。ドナーの細胞のGvHD免疫応答は、被移植者の体内 で広範囲に炎症を引き起こし、薬物治療が効かなかった場合、高い確率で患者さんが死亡する可能性があります。予後不良で死亡率が高い患者さんらは、GvHDが抗炎症性ステロイド薬による治療に抵抗性を示しています。
多施設で行われた共同試験において、被験者に対しCYP-001が低用量または高用量のいずれかで1週間間隔で2回静脈内投与されました。そして、細胞投与後28日目および100日目に患者の反応を評価しました。全症例において、治療の忍容性は良好であり、治療に関連した副作用の報告はありませんでした。

結論として、本試験ではCYP-001の点滴が安全かつ副作用がほとんど見られないことが明らかにされ、全般的な治療効果の高さおよび生存率の改善が第II相試験へ進むことを後押ししています。
臨床試験の結果は、Bloor氏らがNature Medicine誌に報告しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32929265/

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